
〈日 時〉2025年7月15日(火)18:30〜20:30
〈会 場〉都市魅力研究室+Zoom配信
〈参加者〉会場21名(会員9名、一般10名、学生2名)
Zoom14名(会員4名、一般9名、学生1名)
〈話題提供者〉吉原勝己 吉原住宅有限会社、株式会社スペースRデザイン 代表取締役
〈テーマ〉DIYリノベーションとそのネットワーク
空き家・空きビル・シャッター商店街が地域資源に変わる不動産再生活動
〈趣旨〉
父親から引き継いだ経営難に陥っていた築古の賃貸マンション・オフィスビルで2003年からリノベーションを実施。最初に取り組んだ山王マンションでは空室がでるごとにユニークなテーマを設定し、いまでは唯一無二の部屋があるビンテージマンションに。冷泉荘ではリノベーションミュージアムをコンセプトに打ち出しDIYセルフリノベーションに取り組む入居者を募集。ひと、まち、文化を大切に思う人たちが集まる文化発信拠点になっています。また冷泉荘は2024年に戦後の民間集合住宅として国内初の国の登録有形文化財となっています。
2014年からは「九州DIYリノベWEEK」を毎年企画。九州各地のDIYリノベをつなぐネットワークから多くの実践が生まれ、2024年に国土交通省「第2回地域価値を共創する不動産業アワード大賞」を受賞。
今回のセミナーではDIYリノベーションをテーマに、その意義をご自身や仲間の実践から解き明かすともに、ネットワークの経過と効果、これからを具体的にご紹介いただきます。
お聞きになると、空き家問題に取り組む方々もきっと勇気づけられるはずです。
〈講師紹介〉
吉原 勝己(よしはら かつみ)
吉原住宅有限会社、株式会社スペースRデザイン 代表取締役、NPO法人福岡ビルストック研究会 理事長
1961年福岡市出身。清川で生まれ育ち、街の変化を見てきた。製薬会社の研究開発員を辞め、経営難に陥った築古マンションを父親から引き継ぐも、試行錯誤してリノベーションやDIYの分野を開拓。古いビルの再生を次々に実施した。リノベーションミュージアム冷泉荘は福岡市都市景観賞やその他表彰を獲得。また九州DIYリノベWEEKなどを企画。DIYリノベーションに取り組む仲間の輪を広げ、そこから多くの実践が生まれている。
〈主催〉
都市環境デザイン会議・関西ブロック
前田:
今日のコーディネーターの前田です。
今日は、吉原勝己さまにおいでいただきお話しいただきます。吉原さんは、製薬会社にお勤めでしたが、経営難に陥った築古マンションを一族から引き継いで、リノベーションやDIYを開拓しながら、次々とビルを再生された方です。
古さを価値に変えた築67年の「冷泉荘」は、福岡市都市景観賞を受賞され、国登録有形文化財にも登録、国内外からの視察が絶えない優れたプロジェクトとして知られています。築100年のビル経営の技術開発を目指して設立されたNPO法人福岡ビルストック研究会は休眠不動産を再生するまちづくり活動に成長し、今日のテーマ『九州DIYリノベWEEK』も主催しておられます。
また『次世代不動産経営のための「共感不動産」のすべて』という本を、2025年6月30日に発行されています。出版社は福岡市の梓書院さんです。
早速でございますが、吉原さんお願いいたします。

吉原:
福岡から参りました吉原と申します。
今日は前半では私自身のリノベーションによる不動産活用のお話しを、後半では『九州DIYリノベWEEKK』のお話をさせていただきます。
私は、九州から来ましたが、九州は消滅可能性自治体ばかりの、多分日本の中でも衰退が先に起こっているエリアです。僕らのまちづくりの仲間たちも、そうした中で一生懸命動いています。都会から入ってくる情報とは全く違う世界が僕たちにはあります。大変ですが悲惨な状態ではありません。逆に豊かな生活がどんどん深まっていっていくような体験を仲間たちとしています。
そのギャップが、自分の中でも理解できないところがありましたが、あとでお話しするように空き家政策やまちの活性化の政策は、都市の人口規模別で考えていったほうが良いということが分かってきました。
私は研究者じゃありません。今後の地方のあり方を研究される研究者が興味をお持ちいただけたら、こんな現場が九州にありますので、ぜひご協力いただけたらと思います。
今日のサブタイトルが、「空き家・空きビル・シャッター商店街が地域資源に変わる不動産再生活動」です。
このように不動産再生という言葉が私たちの中心軸になっています。
私は、ご紹介のように製薬会社で薬の開発をしておりました。そこでは、新規物質を薬にしておりました。そこに不動産の再生を結び付けていくと、今後新しい分野がたくさん生まれていきそうで、皆さまからもご意見いただければと思います。

旭化成という会社で40歳まで薬の開発をやっていました。すごく面白くて、治らない病気が治せる役割を担えることもあり、天職と思って仕事をしていましたが、親の調子が悪くなって、ちょうど2000年に実家に戻って手伝うことになりました。昔から賃貸業を福岡市内でやっている吉原住宅有限会社です。
上場会社からオンボロビルの大家さんという、このギャップがまたすごかったんですが、そこが私の原点だという気がいたします。
ただ、入ってみたら、5、6年で潰れそうと税理士さんが言い出しました。賃貸業は大変な事業だと知りました。
まず「山王マンション」に取り組みました。やれることは今で言うリノベーションで、海外の雑誌を見ながら、リノベーションを開発していく体験をさせていただきました。すごくいい経験だったと思います。
賃貸住宅分野ではリノベーションという言葉がまだない頃でした。先生が誰もいない状態で、先行しているグループもほとんどいませんでした。大阪のアートアンドクラフトさんが動かれだしたぐらいの時期で、東京R不動産もまだなかった頃でしたので、先行モデルがないなかで個人的にリノベーションの商品開発を進めたということです。
その体験を、今日はご紹介させていただきます。
私は1人信じてやっていたんですが、オンボロビルが魅力的になるなんて誰も信じてくれないので、公に認めてもらわないと世の中が変わらないと思って、一生懸命、いろいろな賞に挑戦してきました。最近では国土交通省でも私たちの活動がグランプリになりました。
大学で講義をさせていただく機会も大切にしました。関西大学で岡先生の授業の一部を担当させていただいています。
そんななかで中国や韓国でも私たちの九州のモデルを参考にしたいと言われる方がおられ、驚きました。今でも韓国の大学と一緒に共同でいろいろな取り組みやっています。
また、人工知能学会に入り、不動産の分野での可能性を探らせていただいています。
そして「冷泉荘」が日本で初めての民間RC賃貸の登録文化財となったというきっかけから、文化庁の要請により、今後、民間賃貸のRC物件を文化財にしていくために建築文化フェローという役割を担うことになりました。
文化を変えないことには世の中変わらないと思っております。そんなスタンスで、建築はど素人の中、アマチュア分野で動いています。

親から継いだ物件が「冷泉荘」「山王マンション」「新高砂マンション」の3棟です。当時はそうでもなかったんですが、福岡の発展につれて今や福岡の中心部にある物件になります。この3棟の事例のご紹介をさせていただきます。
また地方の団地は経営が大変だということで、オーナー仲間から久留米の団地を譲って頂き、団地を再生する実験的な取り組みをやっているのが「コーポ江戸屋敷」です。こちらも一部お話しさせていただきます。
いずれの建物もRC賃貸として築100年の経営計画を立てて、築100年を目指して経営している物件です。
築100年というと私が98歳です。何とか築100年を見届けたいなと思って健康に気を遣っています。いずれ日本中の方々が築100年を目指せるようになると良いなという、あくまでも実験です。
人口160万人「『成長都市型 再生事業』〜築56年「山王マンション」


では、まず私が最初に困った、現在築56年の「山王マンション」の状況をご紹介させていただきます。
受け継いだ頃の建物は写真の右上の感じでして、コの字型で住宅物件なのにバルコニーがないという、ちょっと不思議な物件です。廊下に洗濯物を干すのが普通の生活でした。

しかも外壁は写真のとおりで、募集し案内してもお客さんはそのまま帰ってしまわれる。部屋に入っても、バランス釜に和式トイレなんで、余計最悪な印象を持って帰ってしまわれる。
こんなことやっていたら、退去があると新しい入居者さんはいない。賃貸業で一族が食べていましたので、収入がなくなってこのまま終わってしまう。親の会社に入ったことを後悔した時期でした。
お宅の会社こんなですよって税理士さんに経営状況を見せられたところ大ショックです。いまだに見た瞬間が忘れられません。
古い賃貸ビルを経営されている方だといろんな体験されていると思いますが、滞納の対応で裁判所に通うとか、悪いことばかりが起こります。賃貸は大晦日だけ全員人が家にいらっしゃるので、一棟停電が起こります。そうすると毎年、自分の正月がない。これも慣れていくんですが、大家業はとんでもない仕事だと思いました。


子どもも生まれたばかりで、どうにかしないといけない追い込まれた状態で、当時はリノベーションという言葉がまだ無いなか、いろんな部屋の改造を試み始めました。
幸い福岡だったからか、周りにおしゃれな仲間たちがいたので、一緒にプロジェクトを組んで一部屋1人担当で多くの部屋のリノベーションをおこないました。
また、学生さんたちにも仲間になってもらって、『全国学生リノベーションコンペ』やりました。学生さんたちの力で、素敵な部屋を作ってもらいました。

ここで面白かったのは、リノベーションの入居者さんが「自分でDIYで何かしたいな」と言ってくださることが2008年ぐらいから出だしたことです。ここで感じたのは、入居者さんがDIYに取り組むと、つながりを持てるようになったことです。
古い建物を管理していますとクレームを受けるのが当たり前です。水漏れとか、音問題とか、その中でだんだんと入居者さんとは接触したくない職業になっていくんですが、逆にこうしてつながりを作ると、入居者さんたちがいろんな相談をしてくれる仲間になってくれる体験が起こりました。
これは管理が楽になることだと、社員たちと感じました。
そこで、入居者さんと仲良く、一緒により暮らしやすい部屋に変えていく。お金がないからこそこんなことが生まれてきました。退居されるときは清掃もいらない、そのまま貸せるぐらい大事に部屋を使っていただけました。

賃貸は、気持ちで動いていく空間だということが分かってまいりました。
ここからはいろんなデザインが必要になり、多くの部屋を創る時期に入りました。写真が2003年に創った福岡で最初の賃貸リノベーションの部屋です。多分、日本で個人大家がリノベーションに取り組んだ初めての事例かもしれません。
海岸に落ちているゴミを拾って建ててみたらアーティスティックな部屋になったとか…すると、「古い部屋がいいです」と言われる若い方が入居されるようになってきました。「今まで古いビルで悩んでいたことは何だったんだろう」ということになりました。
これは入居者さんたちに、市場が変わり始めていることを教えてもらっていた時期だったんだと思います。そして、入居者さんとのDIYが賃貸事業の最終形だなと思いました。
入居者さんの力で部屋がきれいになり、退居後は、家賃を上げてもすぐ入居いただける。というのも、こんなデザインは唯一無二だからです。僕たちが競合と思っていた新築賃貸は、実は金太郎飴みたいに同じ建物ばっかりです。結局、機能とか設備とか、駅チカで勝負するしかない。逆に、古い建物を知らない世代の方々が、新しい目で古い建物を見てくださる市場が出来上がっているんだということを、入居者さんたちに教わりました。

僕らは、投資利回りを4タイプに分けて考えています。
壁も全部壊す「スケルトンリノベ」は費用もかかるけれど賃料も2万円上げられる。
そして「エコリノベ」。壁は壊さないから限界はあるんですが、意外とすてきな部屋ができます。1万5000円ぐらいは上げられる。
「プチリノベ」は、オーナーさんたちから相談を受けて開発に入った表層のリフォームです。ところが、デザインを入れることで、1万円ぐらいは家賃が上がる。このデザインと利回りの関係がすごく面白い。
そしてDIYです。
今の仕事はオーナーさんの経営コンサルティングが中心になってきましたが、不動産の再生を仕事にしていくうえでの基本が、この四つの類型から始まりました。

「山王マンション」は今、1棟の中にこれだけ違う部屋がある賃貸のリノベーションミュージアムです。当初から、周りの新築家賃並みの設定をしても、入居者さんに入っていただけるようになりました。
私たちは建て替えよりも実はストック活用のほうが、利回りが良いと考えています。
一族の利回りという概念はまだ一般的ではないですが、50年ごとに賃貸を建て替える一族と、100年維持する一族の、一族の100年利回りはかなり違うと思います。私の父が建てて、私が今こうやって引き継いで、築100年の頃は子どもたちが60、70歳ぐらいです。だから、3世代で食べていける物件があっていいんじゃないか。そうすれば一族的に楽な経営になるんじゃないかと感じております。

すごく驚いたのが、リノベーション賃貸は入居者さんが勝手に仲良くなって、パーティーをやり始めたことです。賃貸ごとにテーマは違いますが、何かが好きな人が集まる賃貸は、楽しい暮らしが生まれていくものなんだな。それは、入居者さんが自分の部屋を自分ごと化するうちに、建物自体を自分ごと化し、仲良しができ、一人ひとりが主役になる、入居者さんが自走していく物件が築古賃貸なんだというのが分かりました。
住民に所有権がある分譲マンションと違って、賃貸は入退居での代謝回転が起こります。僕は生物学科ですが、生物学では細胞の代謝回転が新しいものを生み出す前提になっています。ここに賃貸の今まで語られていなかった魅力とか、持続的な在り方もあるような気がして運営しております。

そこにはいくつかの仕掛けがあります。一つは学び合いです。オンボロ物件で、これを再生するときは、空き部屋を使っていろんな人たちに声を掛けて、「この建物どうしようか」「ワークショップやりましょうよ」とやると、たくさん人が集まってこられます。
そこにエネルギーが生まれるんです。スライド15は「山王マンション」の1階でのスタート時の勉強会ですけれど、このようにエネルギーを注入していくと、私自身もやるべきことのイメージが湧くようになりました。
参加した人たちには、オーナーさんもおられます。自分の物件で動かしていこうという気持ちを生み出す場が、この「ビンテージビルカレッジ」なのかと思います。

もう一つは文化祭やマルシェです。古い物件は怖いんで。人に入ってもらうとこんな魅力あるんだと、まちの人たちに体験してもらう。この繰り返しをずっとやっております。


大規模改修をやってくれる職人さんはスターです。
大規模改修時にはカメラマンに仕事を撮影してもらって、入居さんたちに展覧会をするんです。
そうすると入居さんも協力の気持ちが全然違うし、なんと言っても職人さんたちが頑張ってくれる。そんなサイクルでこの古い建物が今動いています。

「山王マンション」の外壁タイルは、有田焼の窯元で焼かれたものでした。受け継いだ時は、この茶色いタイルが入居率を落としているんだと、悪者にしたくなるんです。実は自分の経営が悪いんですけれど。
自分に限らず、オーナーさんは物件が悪いと言いますが、経営が悪いことに、ここで気が付きました。
それはともかく、うまく行きだして「これは普通のタイルじゃないな」と思って少しずつ調べてみると、有田焼でした。まだビルの専用タイルがなかった時期だったから本物の焼き物で覆われている。これが今ではブランドだと考えが変わりました。

そして、配管問題です。私がビルを維持できないと思った3要素があります。
外壁がタイル物件は雨漏りし易いんですが、ここに特殊な塗装を使うことによって、雨漏りを完全に止めることができました。
それともう一つは配管の漏れです。集合排水管の漏れなんですが、部屋間に埋め込まれていて手が届かない、改修できない状態でボテ漏れが起こっていました。そこで配管を新たに外付けして、室内のリノベーションするたびにここに接合していく。写真のように部屋から外に抜いて新設の竪管に接合することでクリアしていくという手法で、配管漏れがなくなりました。
この竪管も30年後にまた簡単に取り換えられます。


3番目が耐震補強です。耐震補強も順次やっています。
こんなことで、古ビルを解体しなければいけなくなる3要素が、外壁と配管と耐震補強ですが、各物件で一つずつクリアしていっています。
ハード的には100年持たせれられると感じるようになりました。

あとは入居者さんをずっと維持して人気物件、ブランドとして確立していくのが日々の仕事になっております。
入居さんたちにニュースレターを、2カ月に1回全戸に配っています。私たちはこの物件に対してこんな気持ちでこんな仕事やっていますということをずっと配り続けていると、徐々に入居さんたちが感化されていくんです。
「私もパリのアパルトメントみたいな物件を待っています」と返事に書いてくださる方も出ました。その方は最初はクレーマーだったんです。僕らにとっては大発見です。入居者さんたちが僕らの支持者になってくれた。古くからのおじいちゃんおばあちゃんも居ながら、この物件が好きで新たに入居される方、そんな方々の集まりになってきた。
実は古いポストが中2階にありました。郵便局からは1階に変えてくれと言われていたんです。入居者さんにアンケート取ったら、いや、これがいいですという答えが出てきました。そこで、新設のポストは1階に付け、2階の郵便受けには部屋ごとの室内写真を貼って、この建物が「リノベーションミュージアム」であり、建物1棟にこれだけのリノベーションの部屋があると、ここは博物館なわけです。郵便受けの前に立つとそれが分かるようになりました。

ここで、僕の感じたことを図にしてみました。リノベーションで、入居者さんたちから教わったのは、意外にも共感を生み出す建物を作ることでした。
それはワインと一緒で、入居者さんたちの関係、僕ら管理会社、オーナーとの関係を時間をかけて熟成させていくなかで、この共感が初めて生まれるんです。そこで、このレトロビルに住む文化は、入居者さんたちが作ってくれているんだというのが、私たちが今感じていることです。
最初はリノベーションのおかげだと思い込んでいたのですが、それはきっかけでしかなかった。大事なことを学びました。
この次にお話しする久留米の物件は、リノベーションがやれない状況にありました。ここでは共感を作ることに特化して、建物のブランディングを団地でやろうとしています。私たちは、経年劣化から経年優価、古くなるほど価値がある分野があることを、市民の皆さんに知ってもらいたいと思っています。

私たちの会社の仲間は、会社に入って、この文化をみんなで学びながら仕事をしています。

この「山王マンション」は、LIFULL HOME'S総研のRENOVAETION CHRONICLEという教科書に紹介していただけました。東京R不動産がスタートしたり、リノベーションの大きい変化が起こった時期に、世間のことを知らずに「山王マンション」をやっていたのに、ここに載せていただけたのが不思議です。


次にリノベーションミュージアム、「冷泉荘」のお話をさせていただきます。
2005年こんな物件でした。部屋に入って何秒かで吐き気がして外に出てしまうくらい部屋がひどい状態だったんです。こんな廃虚状態になっていました。家族で一生懸命管理していたのに、そんなことが起こるのが古ビルの残念なところです。

皆さん、お話しすると普通にいい人たちなんですが、結果的にまちのお荷物物件になっておりすごくショックなことでした。
「山王マンション」でひと部屋ひと部屋創ってきたリノベーションの次は、一棟レベルで再生するという、全国的にもまだあまりされてなかったことに手を付けました。2006年になります。
いったん全員退去していただき、そこから3年間限定でアーティストの方に入ってもらいました。それも安いお値段です。当時で3万5000円ぐらいに設定したんです。3年後に皆さん卒業ということで退去していただいて、またいったん空っぽにしたところで、賃料を上げていくフェーズに入りました。これは、3年間でブランドを作ることが目的だったんです。
こんな道筋で100年物件を経営できることが、この頃分かってきました。今は古くなるほど収入が上がっていく物件になっております。
そこには、第25回福岡市都市景観賞活動部門という賞をいただいたということもあります。
また昔からの部屋を一室とっているんですが、谷川俊太郎さんがここに来てくださって、その部屋で詩を書いてくださったんです。それを今も飾っています。僕はそこからすごくエネルギーをいただきました。こういう文化人の方が古い建物を好いていてくれるんだなっていうことが、文化との僕の関係をより強くさせていただいたんじゃないかと思います。

ここには三つのポイントを設定しています。
古ビルの再生のポイントの一つは、開かれていることです。市民の皆さんがこうやって入っていただける、自由に入れるような状態です。

それとユニークであること。入居者さんたちがユニークですし、管理人の杉山くんもユニークで、九州大学芸術工学博士でもあり、学芸員のような存在で管理をしてくれています。
皆さまが博多に遊びに来ていただいたときは、杉山くんが案内してくれると思います。
そしてまた、一青窈さんもお風呂に入りにきてくださいました。
実は、元々の形で残している古いお部屋には「ほくさんバスオール2号」という日本の初期のユニットバスを保存しています。
文化財を取らせていただいた根拠にも、きちんと昔の部屋を取っていたことがありました。そのため自社の各物件でオリジナルの部屋を取っています。
古い部屋を見せて、次にリノベーションした部屋お見せすると、「うわあ」って言われて、そのまま契約をされることがあります。営業的にも古い部屋ってすごく大事だと思うんです。

「冷泉荘」からこんなことを教わりながら、ここも耐震補強は終わりました。配管も外壁問題もクリアしていっています。

外壁については皆さんびっくりされるんです。
私は若い頃、同潤会アパートを青山で見たときに、それが衝撃で好きでした。朽ちた美しさって何なんだろうって思いました。
その後、軍艦島の保存をしようという会社さんが完全に樹脂で固定するという技術を持っているということを知りました。固定した状態でこのまま保存していきたいというのが、「冷泉荘」の保存の仕方です。
大規模改修の専門家から怒られるかと思ったら、「これでいいんです」と言われました。

民間RC集合住宅(戦後)で、初めての登録有形文化財にしていただけました。岡山大学の橋田先生と調査を行いました。古いRC賃貸は素晴らしいものだと調べれば調べるほど、感じていますので、日本中の古いRC賃貸がこうして評価される時代が来るのが私の夢です。
それと市民レベルで見ると、文化財のプレートは、すごい影響だと思います。なので、プレートを増やす活動を今後していきたいと思っております。
これについては、会場にURのTさんがお見えですが、URさんの赤羽台団地が公営の集合住宅として最初の登録有形文化財を取られました。僕にはそれがすごく刺激になりまして、Tさんに相談させていただきながら、民間物件でチャレンジさせていただいた次第です。どうもありがとうございました。
プレートが来たときには再び文化財のシンポジウムをやりたいなと思って待っています。

どうやったら古い建物が、収益物件として運営できるかにすごく興味があり、全国を見て回りました。定点観測で見て回る中でいくつか分かってきたことがあります。優秀な再生案件は、そのコンセプトが素晴らしく、さらに建築デザイン的な設計がされていました。
ところが、運営している人の顔が見えない物件と、運営にすごく頑張られている物件の違いがあると感じました。管理があまりされてない物件は次に行ったときに消えていました。リノベーションという世界観でしっかり作ったと思うんですが、建築の次に待つ不動産の日々の管理がどうなっているかが、実はその建物の存続や収益を生めるのかにとって、大きな要素と思うようになりました。
そこで、「関係性のデザイン」という言葉を作りました。日々の清掃メンテや、イベントや、発信や大学や学生と共同で何かされているのかです。今回その関係性をどうやって古い建物で作っていくかが、『マンガでわかる 次世代不動産経営のための「共感不動産」のすべて』という今年出版した本の主題であり、今日の主題でもあるんです。
疎遠になったこの世の中で、古い建物が実は人の関係性をつなぐ役割を新たに担い始めというのが、新しい気付きです。

関係性と関係ありますが、古ビルが福岡市内に何故あったのか。福岡はいったん空襲で丸焼けになっています。冷泉荘が建てられた頃のビルは博多商人の人たちがまちの復興のために建てたんだということが分かってきました。

「冷泉荘」の周りにかわいいビルがたくさんあるんです。オーナーさんたちと知り合っていく中で、先代がそういう思いで建てたということが分かってきました。当時の古いデザインがかわいいというだけのお話ではなく、復興のエネルギーがそこに注入されている建物なのです。

これはオーナー仲間の皆さんです。皆さんにもこのことをお伝えすると、先代がどんな気持ちだったのかとか、お話を聞かれるようになってきます。
そうすると、簡単に壊すものじゃないことが分かってくる。

苦労してでも建物を再生しようということで、私たちも相談を受けるようになってきました。
「冷泉荘」の周りの建物は大きな投資をできる状態ではありません。また私のような100年経営を皆さんが考えられるわけではありません。そこで既存不適格状態のなかで、まちの若い人たちが活躍できる物件を収益物件として運営できるようにしていっています。

単なる空き家でも、人がつながる建物に設定したことで、ブランディングの経営に入り、入居率も上がり、家賃も上げていける状態になってきます。
すると入居者さんは無縁社会のなかでつながりができるし、こんな建物がまちに増えると、衰退していたまちにまちづくりの拠点ができることになるわけです。
すると入居者さんが大事な役割、まちの担い手という役割を担っている。そして、賃貸オーナーにすごい役割が実はあるんだということです。結果的に築古物件は、まちを変えるポテンシャルを持っていると感じるようになりました。

普通のオーナーさんだったら自分の物件を一生懸命再生することでよかったと思うんです。私は不幸にも製薬会社の人間だったから、医学の世界のすごいスピードの進化を実感しています。実はそこには仕組みがあります。
研究所が実験でいろんな薬を開発しますが、そこに医学会とか薬学会が、常に新しい知見を公開しながら学問を進めているんです。だから急速なスピードで、新しい知見がたまっていく。そのなかで、良いものを社会に浸透させるために、ビジネスの場としての製薬会社があります。
実験の場、発信の場、そしてビジネスの場という三つの要素が、一つの事業の分野を発展させる仕組みだと理解すると、吉原住宅の自社物件は、実験の場としてリスクも抱えていろんなことやってみよう、と考えることができるんです。
別会社の「スペースRデザイン」はコンサル事業で収入も得ながら、困っているオーナーさんの物件のレスキューに入ります。ここで得られた知見を、NPOを通して社会に発信をしていきます。NPOだとNHKさんにも結構取材してもらえる。一中小企業だと取り上げられない実績を、NPOから発信すると受け止めてもらえる。この三つの仕組みを当初からやってきたことが、今に繋がっているのではないかと思います。

小さい会社なんですが、1社で不動産再生ができる仕組みを作ろうとしています。この八つのカテゴリーが、賃貸の再生には必要なんです。八つのカテゴリー、それぞれを一担当者が担当しながら、私ども1社でオーナーさんの物件を元気のいい物件によみがえらせていく、そんな仕事をおこなっています。

これが、スペースRデザインという会社の、ホームページの募集のサイトになります。
ちょっと変わったサイトでして、自分たちが手掛けた物件しか募集しないというサイトなんです。そんなんで儲かるの?となるんですが、私たちが知り尽くしている物件を責任持って紹介できますので、そこでファンが増えていきました。

入居中の物件にもウェイティングができます。そうすると、ファンが増えているんだと感じれらるようになりました。

そして、研究者、行政、テレビまで、いろんな取材が増えてきました。宣伝広告料は使ったことがない代わりに文化を発信していますので、いろんなところで取り上げられるようになりました。

そして面白かったのがこれなんです。2012年頃はリノベーションの発展する時期で、リクルートさんがリノベーションの認知度調査を行われました。リノベーションを知っていて関心がある方が首都圏では31.5%、関西が26.5%なのに、福岡だけ突出して46.6%です。早くからずっと活動をやっていると、福岡市民の皆さんが、リノベーションをもう知ってくれていたのです。
これはリノベーション市場を作ってしまった状態なんだと思いました。

スライド48が不動産の再生の受注数です。もう60棟になり、再生の事業自体が動くようになりました。ずっと発信し続けてきた結果です。

依頼いただく物件の平均築年数は44年です。このぐらいが私たちは得意です。いずれも個性的なビルです。これが新しい物件だと、逆に差別化できなくて、僕らは苦手です。
平均稼働率98%。入居者さんたちが支持してくれていることを実感しながらお仕事をさせていただいています。

福岡市内で、まちに一つずつビンテージビルを作りたいと頑張っています。福岡の地図がこんなに埋められるようになってきました。
人口30万『地方都市型再生事業』〜福岡県久留米市「コーポ江戸屋敷」

これが、福岡のリノベーションビジネスの現況です。市場を作ってしまいましたので、プロジェクト初期でも、入居したい人たちがアクセスして来られるんです。だからオーナーさんも安心して、私どもに任せていただく形になってきました。
「福岡だからできるんでしょ」って、皆さん今思ってらっしゃると思うんですが、僕自身「地方だったらどうなるのかな」と考えていました。
オーナー会でずっと勉強会をやっているのですが、そのオーナーさんの1人が、人口30万の久留米市で、先代が団地型の賃貸を作って経営に困っていて、買ってほしいって言われたんです。そこで実験物件として動かすことになりました。

この久留米市には半田兄弟というリノベ兄弟がいました。彼らとも付き合いが長くて、彼らにもこんな仕事をしてほしいという思いもありました。

地方では、オーナーさんたちが、まだこんな考え方には至っていません。
なので、まず自分の物件で実験をやってみようと思いました。この3棟48戸です。

3DKの壁式構造なので、残念ながら大胆なリノベーションができない問題を抱えています。

ですが久留米には若手の職人さんが多く、彼らに任せてみると凄い技術でこんなすてきな部屋に作り上げてくれました。

福岡ですとリノベーションで2万円ぐらい家賃を上げることができ、安全な投資なのですが、残念ながら、久留米では家賃が5万円を超えることができないと分かってきました。というのが、6万ぐらいになると住宅ローンで家を建てれてしまう、そんなまちだったのです。マイホームが好きな日本人ですので、賃貸はマイホームの前段階としか思われてないんだと感じました。
家賃を5万円以上にできないということは、リノベーションでは投資を回収ができないということです。全室リノベーションしては経営がうまくいかなくなるのは見えていました。そこで違う手法を取ろうと思いました。
それと、リノベーションをしてみたら、既存入居者がそんな工事をする物件だったら退去しようとなって経営がおぼつかないような状態になってしまったのです。

ここで、いつものように空き部屋で勉強会の企画をすると、大勢集まってくれました。彼らと一緒に、どうやってこの団地を再生するかという勉強会を繰り返すことになりました。ここで登場されるのがURのKさんです。今日お越しいただいていますが、大阪から毎月来て一緒に勉強させていただき、私たちに可能性と勇気をいただきました。
この田舎の団地再生を考えるなか、日本最大の大家さんの会社の方が大阪から一緒に勉強するために来ていただいた。これ普通ではないとみんな感じながら、すごいエネルギーで勉強会が進んでいきました。

ここで学んだのが『アフォーダンス』という言葉でした。木陰に人は集まるという単純な話なんですが、生態的に気持ちのいいところに人は集まるから、それをテーマにして入居者さんたちが接触点をたくさん作るような、工夫ないかとワークショップで考えました。
ゴーヤでカーテンを作って、エアコンのいらない生活をしようという設定を入居者さんたちに向けてやりました。入居者さんには「電気代安くなりますよ」って言ったら、少しずつ集まってくれるようになり、温度計で測ると「室内が涼しい」ことが分かってきました。

この建物をどんな建物にしようかというワークショップを、やり続けました。
前オーナーさんが賃料を抑えて満室にして売却された物件で、当初は変な感じの入居者さんで僕も困っていたんです。
しかし人が集まってきだすと、住んでいる方々との接触点が増えました。

そのなかで4年後の絵を描きました。「団地魅力化計画」です。
今、この計画を忠実にやり続けています。ウッドデッキを作ったら人が集まるよねとか、木を植えたら人が集まって、ピザ窯でピザ焼けるよね、みたいなことを4年がかりでずっとやり続けました。

そこでいろんな動きが起こりました。
閉ざされゴミが捨てられていたところを、入居者さんたちで花壇にするプロジェクトが始まりました。ピザ窯もでき収穫したものでピザを焼いたり、ウッドデッキでみんなで集まる場が動くようになりました。

このまちはお店がなかったエリアでしたが、パン屋さんが入居してくださったり、若手クリエイターグループが入ってくれたり、コーヒー屋さんが入ってくれたりといったことが起こりました。
また「下請けから元請けになっていこう」という気持ちを持った若手職人さんたちが一部屋借りてくださって、職人シェアオフィス「BASE」が作られました。

この動きが、この団地の大きなエネルギーになっていきます。
スライド63は「BASE」スタート時の写真です。パーゴラ作って、もちまきしたり、そうめん流ししたり。
ここには自由に入れますので、入居さんたちも一緒にイベントをやるといったことが起こり始めました。

「BASE」の会員さんも増えていくなかで、彼らにとって大きかったのは「BASE」に直接発注が来るようになって、元請けになっていったことです。自分たちで仕事を配分するという日本の職人難の時代の一つの在り方がここにあると思います。

そして、半田兄弟さんたちが共感デザイナーになっていき、入居者さんたちが自分たちで植物の手入れをする状態になっていく。

団地には敷地が豊かにありますので、「山王マンション」で体験した自走する建物の仕組みをいろんな場面で作れるのが、私たちの大きな気付きです。

今では、こうやってウッドデッキがイベントの場になっています。

2017年には団地の住民同士にはほとんど接触がなかったんですが、3年で接触点が増えて、共感度があがります。

入居者さんたちの接触が増えると、入居者さんたちがこんな暮らしを求めて集まってくるという現象が起こってきました。


これは福岡ではできなかった。福岡はリノベーションというお金を使った力技で共感を作ったのですが、久留米の場合はそうではなかった。人の関係性をデザインした共感で人が集まるんだ。それが私たちの学びでした。
久留米のいろんなエリアの人たちがここに集まって、それぞれが自分の領域で活躍される、そんな楽しさが起こりました。

次は『九州DIYリノベWEEK』の話題です。

私たちはこの活動を続けて今年で12年目になります。
自分のまちに空きビル、空き家がある、これを何とかしたいという思いのある人たちがたくさん冷泉荘に遊びに来てくれるようになりました。そこで僕の話を聞いて戻られて、それぞれの活動が始まります。
そして、勉強仲間になっていったんです。

九州は消滅可能性都市が、全国的に先んじて起こるエリアです。

これは福岡県の空き家率のデータです。図中の「☆」マークは「九州リノベWEEKチーム」のある都市。うち「☆赤」マークは「2040年消滅可能性都市」。「☆青」マークは消滅とされていない都市です。

このマップで数字がついているところが仲間が活動しているところです。

名称は『九州DIYリノベWEEK』です。キャッチフレーズは、「自分の好きな暮らしは自分で創ろう」「自分たちの好きなまちは自分たちで創ろう」です。
行政とかお金とかは、一市民の私たちに身近ではありません。目の前にある暮らしの中から何かをしたい。みんなで一緒に空いている建物やスペースを動かし始めるグループです。
ここでミソは、建築の人でもないし不動産の人でもないし……そしてお金もないしの中で残ったのがこのDIYだったということです。

これが各チームの再生した不動産の数です。例えば鹿児島の伊佐市は山のまちですが、1人で112棟も再生している強者がいらっしゃる。この人は橋の設計の専門家です。
また、大学の先生もいれば、建築士、宅建士の方、病院の院長先生がまちづくりの中心というところもあります。

このイベントは韓国の大学の先生とも共同でやっています。
昨年には国土交通省の不動産アワードでグランプリをいただきました。

ここでは自分たちの見え方が変わりました。
賞を取ったから市長さんにあいさつに訪問してみると、すごく喜んでいただいたのです。市庁舎の職員さんたちからも、みんな「おめでとう」みたいな感じなんです。
それまで私たちは、1人でやっている、変人に見られていたのが、頑張っている人と見られるようになった。なんと素晴らしい賞をいただいたという気がいたしました。賞は、それをどう利用するかということを学びました。

大牟田の事例をご紹介させていただきます。
福岡県の一番南の端です。昔は人口20万人でしたが、今は11万と半分になっています。当然、消滅可能性都市と言われてきました。
ここで商店街が一つのターゲットになりました。

当時、まち歩きをしますと、駅前とかまちの真ん中が廃虚だらけなんです。
こんなところで育った子は、まちをどう感じるのかと思いました。

そこで立ち上がったのが若い冨山くんです。子どもさんが生まれたのをきっかけにして、こんなまちじゃいけないと、グリーンバードという全国的NPOに参加してゴミ拾い活動をやり続けています。ゴミを拾うのが目的ではありますが、ここでできるコミュニケーションが目的です。ここで彼は仲間を作り上げます。
無理だと思われていたシャッター商店街に彼はアタックしようと言い出しました。最初は止めたんです。そんな大事に関わったらまずいよって。


昔はスライド83のような状態の辰巳屋さんでした。
スライド84は同じ辰巳屋さんの写真です。
左はデパート跡です。デパートが潰れてずっと駐車場になっている、誰も歩かない通り、巨大なシャッター商店街になっておりました。

そこで、このビルのオーナーさん、辰巳屋さんが、「あんたたちやったら1棟貸すよ」と言ってくださったのです。各部屋をDIYでまちの人が活躍する仕組みを作り始めました。このとき市役所の方や商工会議所さんが一緒になってやってくれたことが大きかったと思います。
空き物件のマッチングイベントを繰り返し行うなかで、レストランをやりたいという1人の若者が手を挙げて、市民でここを改装しようということになりました。

お金がないから、初期費用をいかに落とすかがポイントでした。
また、スライド86のマルシェイベントも続けて行きました。
市役所の方も有給休暇を取って手伝ったそうです。オープンしたときには3カ月先まで予約が入った状態でした。

DIYというと単に安く作るというイメージありますが、そうではなくて、まちの人たちの心を動かす作業を一緒にやるのがDIYだとはっきり知ることができました。だから、作り手を増やせば増やすほどお客さんが増やせるということです。

これが成功したことで、この商店街に次々にDIYでお店が作られるようになっていきます。

そうすると大家さんも、「あちらがそうだったら、うちもそうしてほしい」と名乗りを挙げていただいて、今度は物件のほうも動き始めました。

このDIY、Do It Yourselfが、社会を動かすテクニックなんだと感じるようになりました。衰退しているまちになればなるほど、不動産が価値を失うことはいいことになります。賃料とか買い取るのも安い。「ビルを持っているのは大変だから、あげる」みたいな話も出てきています。
コストを掛けず、リスクなく不動産が動かせるようになると、あとは改装費。その改装費はDIYで。それをイベント化することによって、オピニオンリーダーを生み出すことができます。それを広報することで、フォロワーを作ることができる。そして入居者ができていく。そしたら次の物件にまた取り組んで、これを回転させていく。そうすることで最初に立ち上がったソーシャルイノベーターが活躍の場を広げることになっていく。
大牟田だけではなく、他のまちでもこのサイクルが、今、地方で起こっています。

駅前エリアでもこんなオンボロな建物がかわいいブックカフェに変わっています。

市役所が持て余していた駅前に置いてあった電車を、カフェに改装して、まちづくり会社が運営しています。

1人の動きが、大牟田全体の大きな動きになってまいりました。大きいお金を動かさずとも、市民のいろんな人たちが活躍できるまちに変化しています。それが今の大牟田の姿だと思います。彼らは、消滅するか、しないかは、自分たちで決めることだと言われました。全くそのとおりだと感じます。

以前、大阪宅建協会さんに「大牟田に投資ツアーやりましょうよ」と言っていたら、みんなでバスに乗って視察に来られました。それが今や外部の投資家が入って廃虚ビルを買って、まちの人たちが再生して活躍の場を作るという、お金の循環が動き始めました。
このように投資家が入るとすごいスピードでまちが活性化されるという現象が出てきました。投資家が投資しても良い、廃虚を動かせるまちにしていくのが、私たちの一つの目標になり始めました。
人口5〜6万、荒尾、長洲、玉名、合志での複数都市アライアンス型再生事業

次の例はもう少し人口が少ない5、6万のまちです。大牟田から少し南に行った荒尾、長洲、玉名、合志をまとめてご紹介します。

残念ながら、この規模のまちでは活躍人材がなかなか生まれないんです。人口規模と活躍人材の数は比例する傾向があります。まちから生み出せないとしたら、アライアンスを組んで20万人規模のまちの活動にしようとなりました。

中心になられているのが、荒尾駅前の廃虚のビジネスホテルを動かし始めたお医者さん、中村先生です。先生が中心となって、今、荒尾のまちを動かしています。荒尾駅前エリアを、注目してください。これから面白いことが起こると思います。

この五つのまちの、アライアンスを組んでいる一人ひとりの能力はそれぞれです。ですが、それらを総合すると不動産再生をビジネス化するのに必要な、不動産分野、建築分野、コミュニティ分野、関係人口分野、ビジネス分野を補い合い能力の融合を起こすことができるのです。
これによって今さまざまなプロジェクトが始まっています。

ちょうど先々週ぐらいに、国土交通省の1000万円規模の調査補助金を取られたところです。

ここで彼らが今、挑戦しようとしているのが、法人化し「空家等管理活用支援法人」になり、空き家再生をビジネス化して、まちの活性化と自分たちの収益のバランスを取ることです。
小さなまちでも小さなまちの人同士で共同体を組めば生まれることがある。
こんな変化を起こしているのが、この北熊本エリアです。これは、今後のヒントになると思います。
これまで行政のもとで、こんなことは起こらなかった。私たちが民間レベルでエリアを超えて勉強会をやり続けてきたことが、行政の垣根を越えて融合することにつながりました。
逆に行政の皆さんからはありがたいということで、各地で応援してもらえる状況が作れています。市民主導でまちを動かしていくことに、こんな効果があることを、私たちは実感しています。

もっと人口が少ない人口1、2万のまちです。鹿児島県の伊佐市と南九州市のお話をさせていただきます。どちらも消滅可能性都市です。それも、どんどん人が減っています。過疎とも言えるのでしょうか。

伊佐市の場合は、先ほど紹介した脇黒丸さんという一市民が、不動産の魔術師でした。
まちのど真ん中、市役所のそばにある、ずっとほっとかれていた廃墟集合住宅を、所有者さんを説得して購入されました。今、抜群のリノベーションで高い入居率で運営されています。まちなかの廃虚がすてきな建物に変わるという衝撃的なプロジェクトでした。
先日は建築学会の先生方と視察に行ったのですが、利回りを聞くと100%以上みたい。地方はビル価格、不動産価格がもう最低ラインに来ていますので、再生技術さえあれば、安く買って利回り100%で再生することも可能なんです。この脇黒丸さんも一緒に、廃虚ビル再生研究会を作っています。私たちのグループでは、廃虚を再生できる技術を持った人がいるエリアでは、すごいスピードでまちの活性化が起こっています。
廃虚ビルはそれなりの数があり、まちのど真ん中にある廃虚物件が、こんなすてきな建物、活躍している人たちが集まる建物に変わったという衝撃はすごい。すると私のまちでもできるかもしれない、という思いを呼び起こす。廃虚を再生する技術が、今はまちの活性化を加速させる技術になっています。何とか廃墟ビル再生のテキストを作りたいなと思っております。
脇黒丸さんは希代の経営者です。廃虚になったスーパーを買い取って保育園として運営し始めています。設計の人が保育園をやるんです。
おじいちゃん、おばあちゃんを面倒見てくれる高齢者施設や医療施設が、この規模のまちだと廃業になり大きな問題になっています。彼は、最初はM&Aで高齢者施設を買い取って、何とかまちが維持できる状態を民間で1人でやろうとしていたんです。今は居抜きで経営を引き継ぐという形で運営をなさっています。入居者さんもお仕事されている方も、そのまま維持できるからです。
どのまちでもそうですけれど、駅前のクリニックビルが、今、廃虚になっています。跡継ぎがいない状態になって、まちの医療が崩壊するという状態になっています。
クリニックビルも一から建てると大変な金額になるわけですが、使われてない建物を使うことで、お医者さんだけ移住してもらってまちの医療を維持する、その居抜き的なクリニックの運営の研究会も始まったところです。

こうやって、地方の衰退を解決する方法にこんな発明がたくさん生まれてきました。これが九州だけなのか、全国でこんなことが起こっているのかが興味深いところです。
人口1万人 鹿児島県南九州市頴娃町の「過疎エリア型再生事業」

もう一つは人口1万の、頴娃(えい)町の加藤さんです。
頴娃町は鹿児島の南の端です。加藤潤さんは埼玉から移住されたDIYが得意な方です。
頴娃町は不動産会社もないし賃貸物件もありません。でも頴娃に移住したい人はいる。空き家はいくらでもある。としたら、空き家を固定資産税分で所有者から借りて、入居する人が中心になってDIYすればいいんじゃないか。これを加藤さんが手伝いながら、教えながら住む家を作っていくということが、始まっています。
これを東京大学にいらっしゃった松村教授が調査をされ「コミュニティ大工」という形で紹介され広がっています。

今、加藤潤さんが、集落が滅びそうになっているところに拠点を作り、「コミュニティ大工」の弟子を作ることによって、それぞれの集落の拠点が再び復活しています。現在、42の場所でこんなことが起こっています。
このように人口1、2万ぐらいの、どうしようもない状態になると、スーパーマンみたいな方が各地で生まれています。行政が動けない状態のなかで、民間が主役として動いているように見えます。

この規模のまちになると行政の職員の方も少なくて限界なのかもしれません。そうすると民間が動くしかないところに、こんな発明が生まれるのだろうと思います。
「人口1万人のまちの1人の役割は、人口100万人の都市の100倍」だと加藤さんは言われています。「みんな活躍したいんだったら、移住しておいで」ということが起こっています。

長崎に「魚の町団地」という、長崎県営の日本最古のRC公営住宅、48型の団地があります。この再生を県庁の職員さんたちが中心になって動かしていったという事例です。今すごくいい形で動き始めていますので、ここもぜひ視察に来ていただけたらと思います。


ここも「冷泉荘」をモデルとして企画が始まったところす。
私もご縁をいただいて各地の物件でのお手伝いをさせていただいています。ありがたいと思っております。

人口規模というか都市の規模によって、空き家の形態もビルだったり民家だったりと大きく違っています。しかし、共感で人が集まるという仕組みは基本です。建物ごとにその共感に集まる仕組みを、各地の皆さんがいろんなスタイルで実行されています。

そのパターンを抽出したのがこの表です。
十数年フォローしているとこんなことが分かってまいりました。ぜひ研究なさっている皆さんには、地方が再生できるきっかけを考えていただき、政策につなげていただければと思います。
たとえばかつて栄えたまち、港町の下関とか石炭の大牟田には、すごい建物が建っているんです。人口が一気に減ると、そのまま凍結保存されているんです。昔から田舎のまちで、そんなに人口減っていないところは、そんなすごい建物はありません。ポテンシャルのある建物があまりないのです。
儲かっていたまちの方々は教育レベルが相当高かったと思います。自分のまちを何とかしたいというエネルギーが、まだそこにあるような感じです。
廃虚を再生する技術を確立することは、僕たちの一つのテーマでもあります。そして、そこに投資家を生み出せればサイクルが回り始めます。今、大牟田とか下関、伊佐で事例ができ始めました。ここに何かヒントがあるのではないかなと思います。
ちなみに大牟田市と伊佐市は、2014年には消滅可能性都市とされていましたが、2024年では外れました。若い女性が維持されているということなんでしょう。九州は全国でも田舎ですが、エネルギーを持っているエリアなんです。こんなことが起こっているので、ぜひ見て来てください。日本の将来の姿をイメージできることがあるかもしれません。

僕は不動産の教科書がない中で大学での講義やプロ向けのゼミをやっています。新築は建築士の方でないと建てれられないですが、古い不動産は市民が動かせます。つまり大学生とプロが一緒に勉強しても、教科書がない前提の中で面白い体験ができます。

僕の講義で50人ぐらいの学生にアンケートをしました。不動産再生学を始める前は、「日本の将来そんなに期待してません」という子が多かったんです。14回の講義が終わったところでは、「日本の将来に期待している」子が結構増えました。
「君たちは空き家のある不動産再生の機会に恵まれためったにない世代なんだよ、頑張れ」と言ったら、身の回りの「あの物件を動かすとおもしろそう」と言い出します。若い人たちが主役になれる場面が、ここで作れるんじゃないか、という夢を感じております。

それもあり「次世代不動産経営実務者養成カレッジ」を実施し続けています。このような大学講座や、共感不動産を生み出す人たちへの講座は、全国的に必要だと思っております。

そして、全国の大学や各都市に、この不動産再生を勉強する機会をつくるのが僕の夢です。日本人全員が不動産の再生を体験できる時代が来たら、日本は変わると思っております。

僕が今日お話ししたのは、体験談でした。
今までは大きいお金を使って大きいものを動かしてきた時代でした。今はそれがかなわない時代になってきた。その中で、仲間たちとこんな体験をしている原点は、時間をかけて、一生をかけてでもやり続けるという気持ちです。この縮小の時代だからこそ動かなかったものが動かせる、お金を使わなくても動かせる時代に入ったことが、日本の将来への期待を物語っている気がします。

皆さんには共通して社会課題解決事業という原点があります。自分一人で儲ける時代はもう終わっている。そんなことを考えているうちにまちがなくなるわけです。まちを何とかしないと自分の事業も成り立たないのが、今の事業家たちの考え方です。だから、いろんな職種の人たちが私たちの仲間になっているのだろうと思うようになりました。

松村先生が書かれたイギリスの本ですが、こうした海外の本でも私たちの活動を紹介していただけるようになり、海外から「冷泉荘」に視察に来るようになりました。また、団地の本でも紹介をいただいています。

この1、2年でこのような本を建築系の研究者の皆さまが書いておられます。そのなかで私たちの事例を紹介いただき、先生方が自分たちの活動を理論化してくださるようになって、私たちもそこからエネルギーをいただいています。

共感不動産をオーナーさんたちに知らせたいと思い、私も本を出しました。
仲間うちではお嫁さんに来た奥さんが、一族の不動産を任せられることがよくあります。素人の方がすごい重荷を背負っているんです。そういう方々が勉強会で一緒にやっていくなかで、ある時激変してものすごいプロデューサーに変わっていく。こうした方に対し何かヒントになるものが作れたならと思い、『マンガで分かる「共感不動産」のすべて』という本を今回作ってみました。

共感というベタな言葉しかまだ見付けられていないのですが、日本人が元々持っていた住まいの感覚、まちへの感覚を、衰退社会の中でもう一度見直してみると、実は築古物件がすごいポテンシャルを持っている時代に入っています。ただ、都市の人口規模によって全く違う世界観がありました。
今日は皆さまから、今後の気付きをいただけたらという思いでお話させて頂きました。
以上でございます。
前田:
とても熱のこもったご講演、ありがとうございました。ご質問とかご意見をいただけたらと思います。
事前に、「リノベのときに脱炭素を考えられましたか。もし考えられていたとしたら、どういう課題があったのですか」というご質問が来ています。
吉原:
ご質問いただきまして、どうもありがとうございます。
親が高齢になりましたので、断熱して、ふく射熱の冷暖房を入れた部屋に住まわしたらどうなるのかなと思って実験的にやってみました。そうしたら2人とも98と100歳まで長生きしました。やっぱり断熱環境の部屋は寿命と関係あるんだろうなという体験でした。2人とも亡くなったので、代わりに僕が今その部屋住んでいますが、とても快適です。
窓の内側にサッシを取り付けるインプラスには補助金が出ますので、積極的に入れています。45平米ぐらいのRC物件の入居者に聞くと、そんなに広くないので冷暖房は大丈夫と言われるし、実は入居者さんから暑い、寒いといったことを言われることはほとんどないんです。
それ以上に、僕らが先生方に訴えているのは、建物を壊して新築を建てるエネルギー量と、古い建物をそのまま維持する物件のエネルギー量のデータを出してほしいということです。僕はストック活用派なんですが、そこを先生方にぜひ研究していただきたいなと思っています。
またURの皆さまにはコンクリートの寿命のデータを広めていただけたらと思います。
前田:
今、おっしゃられたのは、建築のライフルサイクルCO2のことですね。30年とか50年で解体して新築していくような場合と、おっしゃられたように100年持たした場合とどっちがCO2排出量が少ないのか。新しい技術が入れば入るほど見かけは良くなる。その時点ではいいんだけれど、30年に1回壊さなきゃいけない。持たしたほうがいいだろうと思いますし。研究も進んできているんじゃないかと思います。
では、ご参加の皆さまいかがでしょうか。
会場Tさん:
UR都市機構のTと申します。技術畑の人間として皆様にご説明いたします。
URの建物は70年で減価償却しますという前提なんですが、鉄筋コンクリートに関しては学会等で鉄筋までのかぶり厚の中性化が60年だから、あと10年ぐらいは、しっかり管理すれば持つんじゃないかという考えが基になっています。
実は、鉄筋までのかぶり厚のコンクリートが中性化している建物はURにはあります。それはどこかというと内壁なんです。外壁じゃありません。いわゆる内壁は何にも仕上げもしていません。クロスか塗装しか塗ってないんです。そこで皆さんは二酸化炭素を吐いています。煮炊きしています。だから水分もしっかりある。だから内壁で中性化は起こっています。
それに対して、水分があっても、鉄筋が腐食しなければ、爆裂しなければ問題がないというのが、URでは考えていることです。これは建築技術系の建築生産、躯体、外装、防水などの有識者による懇談会で見解をいただいたところです。ただ、躯体の先生からは、しっかりメンテナンスするようにと言われています。
そういう意味では今、吉原さんがおっしゃったように、水道(みずみち)だとか、鉄筋だとか、そういったものを管理していただければ、100年以上は持ちますよということかなと思っています。URとしても今そんなことをやっております。
会場Yさん:
建築の設計事務所と、あと団地専門の不動産業をしています。
それで質問ですが、分譲の団地は空いてるんだけど、売りに出てこないってことがよくあります。夜に行くと明かりがついてない部屋がたくさんあるんです。しかし不動産屋さんに聞いても、チラシを何年もまいてるんだけど、なかなか売ってくれないと言われます。それを何とか売ってくれるように、引っ張る仕組み、何かやり方はないものかと考えています。
今、共感という話もあったので、そういうことも使えたりするのでしょうか?
吉原:
得意じゃありませが分譲マンションも何回かは経験しました。リノベーションをしながら、工事中もずっと団地の方々に見てもらうんです。リノベーションされて、実際に買われる方が出てきて、こうやって売れるんだっていう体験をされると、じゃあ、うちの物件もみたいなことが起こり始めるんだと思います。
団地の将来問題なので、先行している一事例を皆さんで体験してもらうのは、すごく意味あることじゃないかと思います。お客さんが入居されれば団地が若返っていきますから。
会場Tさん:
久留米の例では、家賃への反映は難しいという話でしたが、もう少し詳しくお願いします。
吉原:
古い建物が好きな人の市場がまだ作れていないんです。福岡ではしっかり作れたんですが、まちが変わるとゼロから始めなければいけませんから。ただ逆に、その市場を作ったグループが、そのまちのリノベーションの仕事を獲得できるということを意味してもいます。
コーポ江戸屋敷では空いた部屋がなかなか決まらないという問題が今、出てきました。そこで、お金をかけてリノベーションを再度やろうというプロジェクトを始めました。能力のある若手の設計者を3人立てて、3人一緒にリノベーションを始めていく。そこに職人さんも絡んで、フェーズ2では職人さんたちがその部屋で発信しながら部屋を作っていく。フェーズ3では、アーティストとか発信者の人たちが最初からそこに関わって、そのプロジェクトを久留米中に出していく立体的なプロジェクトを、ちょうどスタートさせたところです。もしかしたら、家賃限界を超えることができるかもしれないという実験です。ちょうど僕のFacebookにあげたところです。
製薬会社時代の経験から、実験は失敗してもネガティブデータを蓄積することができるので、優位に立てるんです。そこからまた新しいものを生み出せれば、次回「家賃を2万円上げられました」と言えるかもしれない。それを楽しみに頑張ってやるところです。ぜひ、引き続き見ていただけるとありがたいです。
会場Kさん:
竹中工務店でJUDIの会員のKです。
「山王マンション」とかもそうなんですが、リノベーションをするときに、部屋の改装などから小さくスタートしていますが、そのとき、耐震補強や外壁改修、設備についてはどう考えられていたのでしょうか。最初からそれらを見ると、お金がかかってしまうので「無理や」ってなると思います。最初そういうことには目つぶって、部屋の中を変えていくことで家賃収入を得ながら、次のステップとして耐震補強とかに進むのかでしょうか。
吉原:
「山王マンション」はパイロットスタディの連続なんです。製薬会社では、最初は動物実験です。そして人間のフェーズ1で、健康な人に使って副作用が出ないか。フェーズ2で、少ない数の病気の人たちに使って効果が出るか、副作用が出るか。フェーズ3で、偽薬と比較して本当に効果があるかというステップをずっと僕はやってきました。
これはビジネスもそうだと思います。まずは、スモールスタートで利益が出るかどうかを一部屋ごとに確認する。そこが賃貸業の安全で面白いところだなと思いました。デザインによって入居率とか人気が変わることで、賃料を上げられることも面白い。結果的に賃貸って、一部屋でマーケティングがある程度できるというのがすごい発見でした。
この経験がありましたので、スモールスタートで収入が積み上げられることが予測できたので、次の段階が大規模改修の計画で、いくらかかって、それを何年で回収するか。一番大きかったのは耐震補強ですが、各物件でやってみると、1年間の収入が耐震補強代みたいな感じなんです。
多分、一般のオーナーさんには築100年構想はないんで、投資として見合わないから進んでいないんだと思います。われわれは100年の、ちょうど50年目ぐらいで家賃1年分を投資して耐震補強したら、あと50年は運営できるという結果が出ています。あくまでもキャッシュがこれだけ生まれると見定めたうえで、中期計画で投資をする、どの方にお願いするかという人選を含めて、かなり長期的に計画を練っていく。
ですので、外壁改修、配管改修をする時点で、かなり収入は確保できているという前提がありました。
民間賃貸って、コンサル案件もみんなそうなんですけれども、まず一部屋でやってみましょうよと。そしたら、すごくすてきな入居者さんが結構な家賃で入ってくれた。じゃあ、2部屋目、3部屋目、それが何部屋もできてくると、上積みキャッシュがかなり増えるのを経営上実感されていますので、それで皆さん大規模改修に入られる。100年までいかないですけど、70年ぐらいは持たせる感覚で、家庭教師みたいなコンサルをやっています。
会場Kさん:
もう一つはあまのじゃくな質問なんですが、今日はほとんどが成功事例なんです。成功事例の話ばっかり聞いて、それを「ええやんか」「これに一丁乗っかって、うちの廃虚のビルも良くして儲けたい」みたいな、安直な大家さんからの相談もいっぱい来ないですか。共感されていない大家さんもいっぱい来るんじゃないかと。そうすると、結局うまくいかなくて、失敗してしまうということが起こっているんじゃないでしょうか。
吉原:
実は「うちの廃虚のビルも良くして儲けたい」みたいな方ばっかりなんです。ですから、目がだんだん肥えてきました。最初のお話で「この人どっちか」と分かる。ただそういう方が悪いわけじゃないんです。その方の方針があられるわけですから。
私たちの場合は、長期経営を前提にしないと成り立たないビジネスモデルですというのをお話ししますと、この人たちは「儲けさせてくれないな」って思われるので離れていかれます。一生レベルでやるつもりの方は、逆に私たちぐらいしかお手伝いするグループがありませんので、ゼミとか勉強会でずっと一緒に勉強していくなかで、お互いに信頼関係ができたところで、大きな仕事を依頼されることが増えています。
私たちはそんなに儲けられるようなビジネスではないところが正直あります。逆にこういう会社も一つはないと、ストック活用の事業性を証明することができないのかもしれない。また、会社を大きくするとそんなことはできなくなるんで、小さいからこそやれることを今やってみて、そこに新しい知見がいっぱい生まれる不動産業って、すごく面白いと思ってやっております。
それと、一緒にやっているオーナーさんたちの幸せな感覚。不動産をやるって言ったら同級生みんなから嫌なことを言われるんです、不労所得者みたいな。オーナーさんもみんな苦労しているんです。それが、一生かけてまちを良くする仕事だという自覚が生まれた途端に、全然違う経営方針に入られる方をたくさん見てきましたので、そんな皆さんと勉強できたらいいなと言っていると、そんな方しか来なくなっています。
会場Dさん:
建築を勉強しているのですが、今後、こうした仕事に関われるでしょうか。
吉原:
私は建築の勉強してないんで、ぜひご一緒にと思います。
いろんなことをやるオーナーが今、日本中でいっぱい生まれているんです。そしたら、まちにとってはいいことと思ってやっていて、実際いいことが起こっているんだけれど、法的に問題物件が増えていくのが怖い時期に来ています。
ですから、ぜひ建築士の方がここをフォローしていただきたい。もしくは建築士の方が廃虚物件を買われて、ご自分で事例を作っていただくのが、今の時代なんじゃないかと思っています。
あくまでも教科書がない分野を、みんなで開拓していますので、ぜひご一緒に頑張りましょう。ぜひ、物件を買ってください。
前田:
研究室で一つぐらい買って。
吉原:
いいですね。
前田:
では時間ですので終わりたいと思います。
今日はありがとうございました。本当に熱いお話でした。
皆さまも、今日は本当にありがとうございました。